2012年11月19日月曜日

ZAZEN BOYS.TOUR MATSURI SESSION 2012@HEAVEN'S ROCK 熊谷.11月11日(日).レポート

窓の向こうに目を遣ると、真っ黒なつめたさ。夜の地雨。上着一枚じゃ軽装だったな。と、組んだ腕をさらに強く組んでみるが、何も変わらない。当たり前だ。きっと3時間後も愚直に降り続けているであろう雨は、すぐ後ろに冬の到来を控えている。そっと吐いた息がガラスに白く吸着してこごった。気の早い家なら炬燵を出しているかもしれない。

 こんなふうに突然現れる秋の終わりの日。そんな日は、頭の中で[Tombo the electric bloodred]が大きな音を鳴らす。

 [Tombo the electric bloodred]――売春婦とその街の夕方を歌ったこの曲を演奏したNUMBER GIRLが、いったいどんなバンドで、わたしが彼らにどんな思いを抱いているか、言えることは驚くほど少ないうえに、難しい。「最高だった」とか「再結成してほしい」とか、そんな言葉を当てはめてみても、しっくりこない。かわりに浮かんでくる向井秀徳の顔が、ぐしゃっとゆがんだ。と思った次の瞬間、「バリヤバイ」と叫んで消えていくだけ。

 そんなまとまらない愛情をかかえながら、ZAZEN BOYSのツアー「TOUR MATSURI SESSION 2012」熊谷公演に向かう。思ったより距離のあったつめたい道中に、ひたすら[Tombo ~ ]をリピートして、東京から離れる気分を深めていく。


ZAZEN BOYS TOUR MATSURI SESSION 2012
@HEAVEN'S ROCK 熊谷



 と、センチメンタル過剰な小難しい顔を浮かべて開演を待っていた私だったが、1曲目の[RIFF MAN]が始まってすぐ「あっ」と顔を赤らめた。


HEAVEN'S ROCK 熊谷 入り口にて
 吉兼聡、吉田一郎、柔道二段・松下敦、そして、向井秀徳。9月に4年ぶりのニューアルバム『すとーりーず』を出し、新宿タワレコで「最高傑作」と喧伝され、たぶんロキノンもそんなようなコピーを書いて(読んでなくても分かる。絶対書いてる(笑) いや、真面目に書かざるを得ないのだけれど。)、実際その言葉通り「最高」の絶頂をリピートするたびに与えてくれたバンドが彼らである。そのバンドのライブに、果たして道すがら思ったような、哲学や文学の気持ちは意味を成すのか。成さない。成さないどころか、ちょっと場違いですらある。「踊ろう」なんて言葉はないけれど、そうするしかないリズムの横溢。難しいことはひとつも必要ないのだ。

 会場のセッティングこそ微妙だったものの(客席とステージがほぼ同じ高さ&ボーカルの抜けがなんとなく悪い。)アルバム音源とは趣向を変えて仕掛けたっぷりに演奏される楽曲に、「もう、あたしってばバカ」とさっきまでのつめたい気持ちを振り払って踊り狂う。


 
 [サイボーグのおばけ]でのパンツ・セッション(と命名するしかないくらい、パンツパンツパンツの連呼。さらに進んで、レースクイーンのハイレグ。から覗く陰毛。なんて言葉まで吉兼聡ことカシオメンのテレキャスになぞらせて、満足そうな笑みを浮かべる向井を、どのフェティシズムに分類すべきか?というのは、結構な難題だと思う。)にしても、[Maboroshi In My Blood]での各ソロパートのアレンジにしても、観客とのコール&レスポンスにしても、とにかく演奏のヴァリエーションが山ほどあるということが、今日ここに来た意味というのを深く思い知らせてくれる。

 それだけではなく(演奏を音源と変える。というのは、割合どのバンドでもやるし出来ることであろうから。)向井の放つ殺気だけを頼りに、他の三人が一斉に音を出す→止めるという「次いつ音が鳴るのか分からない」緊張感がZAZENをZAZENたらしめ、同時に観客の呼吸を止め、ああダメもうそろそろ誰か弾き損ねちゃうかも窒息しそう。というところで丁度来る4人の音の爆発が、一気に開放からの興奮へ持っていくという、まるで菊地成孔的な(ということは、同時にマイルス的なと言えると思うし、実際向井がクイックジャパンでDCPRGやジャズについて言及していると思ったのだけれど、載っていなかった。夢かしら? でも、[サイボーグのおばけ]で「農林水産大臣、マイルス・デイヴィス」と歌っているし、今回のライブでも「ジョン・コルトレーン」と台詞に挟み込んでいたし、そう遠くはないと思うのだけど。)ライブ展開によってもたらされる快感のすごさは、やっぱりYoutubeでは味わえない。


 話を熊谷に戻そう。
 MCで、とある観客の「向井、砂漠やって、砂漠!」という思わず背筋の凍る(笑)掛け声に対し、向井秀徳、「あの~、昔、高校生のとき、エレファントカシマシのライブをホールに観に行ってですね。女性のお客さんがひとり、何々やってー!と歓声をあげたら、宮本さんが「個人的に話しかけないように」と言ってですね、わたしは、こっええーと思って小さくなって椅子に座っていました。(ここで微妙な間。不安になる観客。)……でも、今日は個人的に話しかけてもらってかまいません。返すかどうかはわかりませんが。」と、ああ、ありがとうナイスアンサー。もう、徹底して楽しい。
 もちろん、『すとーりーず』の中には、かつてのNUMBER GIRLのときのようなエモーショナルな歌も入っていて、それを生で聴いてしまえば、ぐっと胸を押されたような泣きたい気持ちになる。そして、その感情の起伏さえおそろしくハッピーだ。


 いつから彼はこんなに開けたエンターテイナーになったのだろう。この幸福感が、彼の計算にしろ、あの場の偶然にしろ、消えることはない。
 アンコール、向井秀徳が指揮するメンバーのアカペラショーからの[Asobi]という流れにあった、かつて彼が抱えていたであろう怒りやよどみをまったく感じさせない清清しいユーモア&クールさに、あふれんばかりの愛を感じる。その愛の矛先は、全ての音楽であり、メンバーであり、我々観客であり、世界であろう。そして、彼もまたそれらから愛されている。素晴らしい平和の一夜。

 2012年12月20日SHIBUYA-AXで追加公演。



[SET LIST]

※曲順はばらばらです。やったものだけ。(しかも、ちと記憶があやしい。)
RIFF MAN/SUGAR MAN/Maboroshi in My Blood/COLD BEAT/Honnoji/Weekend/The Drifting/HIMITSU CIRL'S TOP SECRET/すとーりーず全曲/encore,Asobi


BGM

①PSY - GANGNAM STYLE(バークリー出身っていう驚き)
②DCPRG - PLAYMATE AT HANOI(やっばい。冷凍都市も最高な一方、熱帯もやっぱり捨て難い。)

2012年11月11日日曜日

ジャズドミュニュスターズ@新宿ピットイン.11月6日(火).レポートと雑記

本のアルトサックス。が、それぞれ絡み合いながら無視しあいながら嬌声をあげる。カジュアルシャツにハットの菊地成孔、フォーマルスーツ・黒タイ・黒縁メガネの大谷能生。全く似ていない双子のような二人の奏者と、機材・楽譜の溢れた机上、さらに後ろにグランドピアノを擁した、新宿ピットインのステージから流れる耽美なサックスを受けて、わたしたちは悩んでいた。踊るべきか、否か。今から聴くものはいったい何なのか。欲望が多様化・細分化され、ユニクロがドンキホーテがセブンイレブンが、ほぼすべてのニーズに応えてくれる今の日本で、不安。少しの恐れ。そしてときめきをもって、未知なる音楽を聴くことが出来るなんて、わたしたちはどう反応していいか分からなかった。だって、まだそれについての教科書はアマゾンで売ってないんだもん。




2012年11月6日菊地成孔3デイズ2日目

ジャズドミュニュスターズ・デビュー公演@新宿ピットイン




ピットインの写真がなかっ
たので(笑)歌舞伎町の
スパのトイレの写真。
 「たぶん、踊ってたほうが楽ですよ。」これ、ヒップホップかどうかもわかんないし。と冒頭で微笑んだ二人、再構成されたDCPRGの[Catch 22](兎眠りおんa.k.a.初音ミクのパートがとにかく最高。再録なのか、その場で元音源にエフェクトをかけていたのか、素人にはちょっと分かりかねたものの、とにかくCD版よりケイオス! 高度1万メートルからカタコンベまでをカヴァーするぐらんぐらん具合。)でわたしたちをいったんは欺き、「ああ、この路線ね。じゃあ全然ヒップホップじゃん。踊れるじゃん。」とほっと緊張を解かせたそのあと、シームレスに始まった「朗読」――ほんとうに、片手に小説を持って。――が、再び同じ苦悩に突き落とす。お、踊って、いいの? これは、な、な、なんなの? とりあえず、思うしかない。「大谷能生の声、サイコー。」

 「ブルックリン第4地区で生まれた僕は……」と静かに語る美声に、二人の手元で切り貼りされる音の断片がかぶさって重層的にノイジー。でありつつ、やっぱりダンサブル。そして、たまに混じるスクラッチが、唯一われわれの知るヒップホップ。
 踊りたい、踊れない。身体が動いてしまうわたしと、凝視するしかないわたしと、フロアはぽつぽつと分かれ始める。(なかには、驚くべきことにあのわずかな明かりの下で読書を始める人がいた(笑)しかも参考書(笑)も~どれだけ賢くなるつもりなのか、この音の中。)DCPRGやペペ・トルメント・アスカラールとは違って徐々にアガっていく構成ではなく、難解さと踊りやすさが交互にやってくる展開は、ふだんならチャンプルー→興奮。なんだけど、今回はなぜか最後まで2分割された観客のままだった。(いや、答えは分かってる、勉強好きな人間ばっかりだったのだきっと(笑))でも、わたしの身体のなかは、熱い。



 ジャズ・ドミュニュスターズ。観念的・実験的というコロモをかぶったダンス・ミュージック・しかもヒップホップで全身を痺れさせた(まず背骨。次に頭部。あと足ね(笑))二人の男は、自分達も、観客も、音楽も、何もかもをこの晩ふたつに分けてしまうという「フロイト的」な力。「次はクラブでやりましょうね。そしたら踊れますからね(笑)」という菊地さんの言葉にそのさらなる快感を期待。
 



***



 う、なんか泣き出したくなるような1週間は、とても穏やかで、疲れていて、旧い友人と会って、投げ出したくって、愛読書はずっと『スペインの宇宙食』――しかも神経症発症直前の40日間の食べ物のことをとにかく詳細につづった日記の部分だけ。わっかりやっすいなあ、もう(笑)――を繰り返し繰り返し地下鉄のなかで読んで、ああ、もう、限界だったのでした。

 旧い友人たちと会ったのは、大手町でした。丸の内アオゾの横に走るガード下で楽しい鍋をいただく。モツだったかな。よく覚えていません。

 わたしは、本当に友人に恵まれていて、それだけは才能だなあと感じていますが、この晩も、素敵な思い出話と下世話な話がいい塩梅で焚き込まれており、安心してハイボール。ん? サワーだったかな。よく覚えていません。

 泣きたいときはたぶん映画が効くんですよね。映画じゃなくとも、とにかくストーリーのあるものじゃないといけない。勝手に涙が出てくるときはね、それは誰かに自分の話をしたほうがいい。でも、結局一回も泣いてないな、この秋は。