2013年3月19日火曜日

ART-SCHOOL - 『The Alchemist』<34歳は、夢を旅した少年のままに>

2011年のメンバー脱退を受け、2012年の活動からドラムに藤田勇、ベースに中尾憲太郎をサポートメンバーとして配し、アルバム『BABY ACID BABY』の制作と全国ツアーを行った「新生アートスクール」は、今回エンジニアに益子<ROVO>樹を起用して(このエンジニアの変更→音の変化の話はRO69の小野島大さんのディスクレビューに詳しくかつ面白いです。)、完全限定生産である5000枚のミニアルバムを制作しました。なぜ限定なのか?しかも5000枚なのか?という疑問については「マーケティング戦略上、5000枚がもっともコスパがよかったから(よく語意を理解しないまま書いています)」「ミニアルバムって何枚ぐらい売れるのか読めなかったから(マジでこれだったら最高にクールだぜキーオンミュージック)」等、アートスクール側というより音楽会社側の意向っぽい、まあインタビューを読んでも公式サイトを見ても理由は書いていないし、別にどうでもいいことなのですが(笑)、ただ限定生産という以上「いずれ手に入らなくなるのだ」ということをはじめに記しておきます。



イントロのリズム隊の力強く確かなうねり、アウトロに向かって響くサックスの冷たい金属音。1曲目の[Helpless]はそれらの音に乗せてジャケットどおり白黒の情景をひりつくギターに叫ばせる。「Helplessさ Hell Placeさ」と救いのなさを呟く歌詞は、2曲目の[フローズンガール]、3曲目の[The Night is Young]のような誰でも口ずさめる美しいメロディの上でもはっきりと囁かれ痛みを増すようだ。「本当に死にたいと 感じない様に」。
それでも満ち溢れる光のような音像は、BPM上最高潮に達する[Dead 1970]のメタリックさの背後にすら存在して、やがて終わりに向けてその冷たい澄んだ輝きは増していく。

 

 「この作品は『BABY ACID BABY』との2枚組みの一枚で、発売の遅れたDISC2である。」と言っても違和感はないでしょう。リズム隊の雄雄しい低音を踏みしめながら冷たさと重たい密度を感じさせたDISC1『BABY ACID BABY』、その雄雄しい低音はそのままに、輝くようなギターの音の粒と木下理樹の呟きがキラキラと零れ落ちていくようなDISC2『The Alchemist』。DISC1とDISC2をゆるやかに分けるその光の有無は、前述のようにエンジニアの変更があったこと、そして木下理樹のもつ「誰でも口ずさめる美しいメロディ」を生み出す力が今作で解放されたことが要因といえます。

 ともすれば陳腐な明るさや踊れないバラードへと傾いてしまうその「きらきらしさ」。しかし、アートスクールのそれは、絶対的な力――絶望と虚しさだけを誠実に・朴訥に・純粋に歌う木下理樹の詞の力――によって、シューゲイザー・ロックとしての堅牢な形を崩しません。絶望するわれわれを決して忘れず詞を書き続ける木下は、神の怒りをかって石を運び続けるシーシュポスなのか? それともひとりだけ戦争が終わったことを知らない兵隊なのか? あるいは自分で生み出した使命をもって走り続けるメロスなのか? いずれにせよ、このアルバムにはリズム隊の生み出す重厚な音への安心感以上に、憂鬱であることを絶対に否定しない木下の優しさへの安心感があります。

 アルバム最後の曲[Heart Beat]、泣いているときの鼓動のようなビート、それに乗るかすれた木下の声を聴いていると、やがて自分が本当に泣いていることに気付きます。3月11日以降、持たなければならなくなった希望を引き剥がして「Crush & Burn」と叫ぶ声にひたすら愛を感じながら。(中山裕子)


2013年3月13日発売 1,800円
1. Helpless
2. フローズンガール
3. The Night is Young
4. Dead 1970
5. 光の無い部屋
6. Heart Beat

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