2013年5月6日月曜日

THE GOLDEN WET FINGERS - 『KILL AFTER KISS』<三人の笑い声が聞こえる>

-- OUTLINE
 映画『赤い季節』のために結成されたバンド、THE GOLDEN WET FINGERS。
 チバユウスケ、中村達也、イマイアキノブの三人は、いかにもイロモノ――黒く塗りつぶされたまなじり・刺青を隠す気の無いつなぎ・たっぷりとしたマーブルの毛皮――といった格好で、アー写の向こう側からこちらを見据えていた。

 真っ黒で不敵な6つの瞳から繰り出されるのは、いったいどんな音なんだろう。

 ブランキー、ミッシェル、ロッソ、ミッドナイト・バンクローバーズ、ロザリオス、バースデイ。という、彼らがやってきたバンドの音を片っ端から想像しながら、誰もが期待をし、不安をもってライブを待っていた。でも、始まればすぐに気付くのだった。チバの答えはいつも同じ――「ハートが踊ればそれが全てさ 他に何があるってんだ?この世界に」熱気で音のこもったギター、ジャリつくマラカス、心臓を殴るドラム、そしてあの格好からは想像もできない陽気さと適当さ、ちょっとの風刺、たくさんのアフォリズム、すべてのカッコよさ。がそこにあった。

赤い季節トークショー&ライブ.THE GOLDEN WET FINGERS@大阪梅田クアトロのレビューはこちら


-- SUMMARY
 いつもの素晴らしいバラードは1曲もはさまれない。バランスが存在しない。何もかもが同じハイ・テンションだ。
 露骨なまでにライブハウスそのもの。といった加減にレコーディングされているローファイな音は、生まれてこのかた手加減なんてしたことないだろう中村のドラムと、ネジのすっ飛んだイマイのギターを溶かして気持ちよく走る。それに乗っかるチバの声はさらに気持ちよく、淫靡に咆える低音が興奮しすぎて高音にひっくり返ったときですら、映画よりも映画らしいGWFのやりたい放題の世界観を描いてしまう。
 それだけが延々と続く、すべて同じに聴こえなくもない狂暴な曲群。それでもまったく退屈しないのは、3人のハッピーさが、演奏の強度と中毒性を生み出しているから。名盤。


-- REVIEW
 ほぼすべての楽曲が、どこか遠いところにある乾いた海岸を、真っ赤な四輪でぶっ飛ばしているような情景を描くのだが、ひとつだけ違う景色の曲がある。

 [Civilators]――チバには珍しく、映像を惹起させる言葉がいっさい使われず、まるで一人芝居の台本のように書かれたこの曲の歌詞は、現実にいる特定の女性へのメッセージにも思えるし(だとしたらとても面白く、でなくとも素晴らしい歌詞。真相は後世の歴史家に託すしかない。)、「俺はもっと自由だからさ」という台詞には、なんだか実感がこもりすぎている。
 今ここではないどこか。誰かに似ているが誰でもない誰か。それらへの、映画みたいにロマンチックな気持ち。
 そんなことばかり歌っていたチバが(もちろんこのアルバムのほとんどもそのスタイルを踏襲している)突如この曲にだけ生活感をにじませたのは何故なのだろう。そして、その殺伐さにも関わらず、どうしてこれほど余裕で笑っていられるのだろう。



 内省的で抽象的な気分から、開放的で具体的な気持ちへ。当人もわけのわかっていない何かへの苛立ちから、世界とつながっているメッセージへ。『I'M JUST A DOG』以降、チバの世界の夜明けは加速するばかりだ。

 GWFに限って言えば、久しぶりのイマイアキノブとの制作だったことも関係しているだろう。シングルを出す必要がない、好きなものを好きなだけ作っていい特別なバンドだったというのもあるだろう。中村達也の本能的な生き方に感化されたのかもしれない。不惑を超えて、肩の力が抜けたのもあるだろうか。理由は何であれ、とにかく彼の夜明けの根底にあるのは「楽しい」という単純な気持ちなのだ、と僕は思う。



 そんな精神的なヘルシーさが、思わず彼に生活の一部を歌わせてしまった。とするならば、やっぱりこのアルバムはコントロールされていないやりたい放題だ。アベやフジイという司祭不在のなか、ガレージロックそのものの力を思うまま燃焼させて、ただただトランスを繰り返す気持ちよさを、悔しいぐらいたっぷりと詰めこんでいる。
 年をとっても、いや年をとったからこそ、笑いながら飛び込んでゆける。軽い電流の走る幸福感。チバのさらなる前進とも言える作品だ。
 


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