2013年8月30日金曜日

Hiatus Kaiyoteとは何者か? オーストラリアからのネオ・ソウルの使者①




 ハイエイタス・カイヨーティ。オーストラリアのネオソウル・バンド。と言ったところでほとんどの人が首をかしげるであろうが、1曲聴けばその音に全身が震える。ヴォーカルの女性の声はまるで巫女のようで、大地とつながる神秘さの背後にはシンセのエレクトロな響きも聴こえるけれども、それもすべて彼女のしもべだ。モダン・ジャズ的なシティ感もありながら、それでもまっさきに想像するのは地球のへそ・エアーズロック――オーストラリアにある巨大な。というには巨大すぎる赤い一枚岩――で、ゴスペルだったり民族音楽だったり人間という生き物の奥深くに入り込んでいくようなリズムに、ようやく求めていたバンドが現れたのだと息をのむ。風変わりなメイクやコシのある歌い方には、レディー・ガガやかつての椎名林檎を想像するひともいると思うが、彼女たちとはまったく別種のエモーショナルさ、裸の感情を持っている。それはやはりバンドの育ったオーストラリアという大陸の空気が影響しているのであろうか。
 この特集では、バンドの概略をはじめ彼らに影響を与えたアーティストまでを追い、いったい何がこの音楽を形成する種となったのかを見ていきたい。(中山裕子)

 

<第1回 Hiatus kaiyoteとは何者か?>
 最初は彼らのプロフィルだ。日本語で書かれた記事がごく僅かのため、彼ら自身のFacebookに載っている英文の説明文を意訳したのが以下である。


 ハイエイタス・カイヨーティは、ネオ・ソウルのバンドだ。オーストラリアのメルボルンを拠点として、ラテンやジャズ、オペラ、そして映画的な情景を思い起こさせるようなネオ・ソウル、ヒップホップ、エレクトロビーツをフォーピースで融合している。 
 バンドは2011年半ばに結成され、それ以来彼らは大きな称賛を受けてきた。ジャイルス・ピーターソン・ワールドワイド・アワードの年間最優秀ブレイクスルーアーティスト賞の獲得をはじめ、BBC Music6のジャイルス・ピーターソンの番組で「今週のアルバム」に選ばれたり、エリカ・バドゥや クエストラブ、シャフィーク・フセイン、ミゲル・アトウッド・パーカーソン、ジェイムス・ポイザー、フィロア・モンチ、ジーン・グレーのような有名人の支持を得たりしている。(中略) 
 バンドを率いているのは、謎のシンガーソングライター兼ボーカリスト兼ギタリストであるナイ・パームだ。彼女は入り組んだ構成の楽曲をつくり、神秘的で色彩的な豊かさ、現実と同時に目に見えない世界をも描き出して、彼女の23歳という年齢を超えた作曲とパフォーマンス能力を見せている。
 バンドのほかのメンバーは、メルボルンで最も素晴らしく、最も多才なミュージシャンとプロデューサーのうちの3人だ。キーボードのサイモン・マーヴィン、彼はジャズ、ソウル、ラテンのシーンで身を立てたプレイヤーで、シル・ジョンソンやブッカー・T・ジョーンズなどの世界的なアーティストのバック・バンドにいた。また、オーストラリアで最大のダブ・レゲエグループ、The Red Eyesでも演奏していた。彼は現在も、世界的に有名なソウルグループ、The Bamboosと共にプレイしている。ベースとラップトップ、ギターを担当するポール・ベンダーはマイアミ大学の高名なジャズ科の卒業生で、マイアミのインディーズや実験・即興音楽の情熱あふれるキーパーソンだった。ドラムのペラン・モスは、唐突さと滑らかさを兼ね備えたビートの原動力であり、実験的なMCやプロデューサー、パーカッショニスト、DJの経験を持つ。彼ら3人は、ヴォーカルのナイ・パームが想像もしなかった方法で、彼女の詞と曲を完璧に現実のものにしてみせた。
 2012年の4月にリリースされた『Tawk Tomahawk』は、ハイエイタス・カイヨーティのデビュー盤である。10曲入りのEPで、ほとんどはメルボルンのバンドの自宅で録音とミックスが行われた。複雑なアレンジのなかで細部への気配りやバンドの専門性の広さをみせている。最終的には、メンバー同士の共鳴を通じて、彼らはあらゆる意味で革新的で非凡でユニークなサウンドを創りあげた。(後略)(Hiatus Kaiyote - Facebookより引用)


 このようにプロフィルは彼らをほめちぎる言葉で埋め尽くされているが、YouTubeにあがったライブ映像を観てみるとなかには荒削りという印象を受けるものもある(もちろん録音状態が良くないことも多分に影響しているが)。それでもなお精神を揺らす楽曲の構造やエモーショナルなナイ・パームの声。そんなメロディアスさにそぐわない、高揚しきった観客を映像のなかで認めるにつけハイエイタス・カイヨーティが強力な・麻薬的な効能を持つバンドであることが充分に理解できる。



<ナイ・パーム。彼女の世界>

 バンドの中心にいるナイ・パーム。彼女の書く詩が想像させるのは、宮澤賢治のような繊細で広大なこころのなかの世界だ。その詩をひとつ翻訳してみよう。

"The World It Softly Lulls"

Rarity glistened sharp,
the memory of silver tooth bark,
bathed LED light history
fractured into pieces.
And outside
storm forks a snake tongue
curls through my finger tips warm
A rough streak ribbons around my skull.
The world it softly lulls.
The world it softly lulls.
The world it softly lulls.
The world it softly lulls.

するどく煌めく奇貨、
銀歯に宿った記憶が怒鳴り
LEDライトの歴史に光を浴びせ、
ばらばらに砕けていった。
その外では嵐が、私の指先をあたたかく絡めとった蛇の舌を突き刺している。
乱暴な稲妻は、わたしの骸骨の周りでリボンとなってちょうちょ結びを作る。
世界がやさしくあやしてくれる。
世界がやさしくあやしてくれる。
世界がやさしくあやしてくれる。
世界がやさしくあやしてくれる。

 わたしは英語が自由ではないので彼女のつむぐ言葉よりもそのエモーショナルな歌い方についつい耳を傾けがちだったが、こうして文字に起こしてみると、彼女の詩がハイエイタス・カイヨーティの魅力のひとつであることがよく分かる。韻を踏むよりも、同じイメージを持つ語句、"The World It Softly Lulls"でいえば「光」、を全体に散りばめて、非現実的な・しかし鮮明で美しいヴィデオを頭のなかに流す。まるで俳句や短歌だ。


 こんな詩を書く彼女はいったい何を考えて音楽をやっているのだろうか。次回以降は彼女らのインタビューを日本語に起こしていく。
(次回更新予定 2013年9月6日金曜日)

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